オートファジー機構ついて
細胞に栄養が不足すると、私たちの細胞は自身の細胞内容物を分解して栄養素として再利用しようとします。ざっくり言うと、これがオートファジーと呼ばれる現象です。
もう少しプロセスを説明します。まず細胞内小器官や不要なたんぱく質などの細胞内の成分が、「オートファゴソーム」と呼ばれる脂質二重膜の構造体によって囲まれて、細胞内から隔離されます。
その後に「オートファゴソーム」は細胞成分の分解工場である「リソソーム」に取り込まれ、内容物が分解されます。
オートファジーの持つ意味
オートファジーは生理学的に様々な重要な意味を持ちます。
- 生体内のアミノ酸量の維持
- 不用な細胞内成分のターンオーバー
- 細胞の分化プロセスの正常化
- 免疫機能の調節
- 腫瘍細胞の除去
など
オートファジーは常に細胞内で多段階で調節される機構と考えられています。
正常な状態では、オートファジーの活性低い状態ですが、栄養飢餓状態や細胞内エネルギーの枯渇、ウィルスや微生物の感染、ホルモンや化学物質の曝露などが起きると、まるでスイッチが入ったようにオートファジーは活性化します。
逆に、オートファジーの抑制因子としてはある種のガンや神経変性、炎症、紫外線への曝露などがあげられます。もっともよく知られるオートファジーの抑制因子は「老化」です。
オートファジーとスキンケア
(株) ポーラ・オルビスホールディングス社が2013年に行った発表では、真皮線維芽細胞が持つ代謝システムであるオートファジーによる分解サイクル「オートファジーサイクル」は加齢と共に停滞し、
1.コラーゲンなど真皮を形作る細胞外マトリックスの産生
2.エネルギー産生に必要であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)などの産生が低下することがわかってきました。
参考情報:Improvement of Chronological Skin Aging through Autophagy Regulation
つまり、オートファジーの機能を正常に保つことは肌の代謝機能を正常化し、加齢による肌トラブルを緩和する機能があるといえます。
オートファジー機構の評価
実際にオートファジーの機能をInvivoで評価する方法は確立していないようです。しかし、Invitroではいくつかの有効な方法が確立してきています。オートファジーを評価する上では直接的に評価する方法と間接的に類推する方法がとられているようです。
直接的な評価でよく利用される手法としては、オートファジーの過程で生成されるオートファジー小胞を蛍光色素で直接染色して観察する方法です。他にはオートファゴソームの形成時に特異的に発現するLC3タンパク質量を定量する方法や、LC3タンパク質に結合し選択的に分解するp62 というタンパク質の機能を解析する方法がとられているようです。
間接的にオートファジーを評価する方法としては、オートファゴソームを形成する前段階の細胞内のシグナル伝達系の動きを評価する手法です。オートファジーは食餌栄養素やインスリンなどの外部刺激によって引き起こされる、高度にコントロールされたシステムです。特にmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)はオートファジーのシグナル伝達系の中で重要な役割を担い、mTORのタンパク量や活性を測定することで間接的にオートファジーの活性機構を評価することができます。
オートファジーを活性化する化粧品原料
ここで、市場で入手可能なオートファジー活性化原料についてご紹介します。
Juvenessence(ジュベネッセンス)製造:BiotechMarine 販売: 株式会社GSI クレオス
フランスのブリュターニュ地方北部の環境のきれいな海に育つ海藻の一種「アラリアエスクレンタ」の油溶性成分を主原料としたエキス。加齢によって増えるmTORの産生量を68.5%減らす機能がある。
Amitose HGA 製造販売:株式会社成和化成
Nelura(ネルーラ) 製造販売:株式会社テクノーブル
国産のハスの花を使用した機能性アンチエイジング素材。ミトコンドリアに特異的なオートファジー機能「マイトファジー」を活性化する。
過剰な活性酸素を発する異常ミトコンドリアの除去を促すことで、光老化とは異なる自然老化に対応する新しいアンチエイジングを実現する。
中国のトップパーソナルケアインダストリー雑誌 Happi China 主催によるRingier Technology Innovation Awards 2017のActive Ingredient 部門にて最優秀抗老化原料を受賞
REGU-SCENCE(レグ-センス)製造販売:ディー・エス・エム ジャパン株式会社
スペイン・ナバラ産ホワイトアスパラガスエキスを使用したエキス。オートファジーのマーカータンパク質LC3の量を200ppmの添加量で50%増やす。また、若齢・加齢被験者サンプルにREGU-SCENCE100ppm使用した場合でも、両方のケースでオートファジー機構を活性化する。
CELLDETOX(セルデトックス) 製造:SILAB社 販売:セティ株式会社
α-グルカンを豊富に含む加水分解酵母エキス。1%の添加でケラチノサイト中のLC3タンパク質量が19%増加する。またリソソームの形成量を増やす作用を持つ。
AQUATIDE 5000(アクアタイド) 製造販売:アリスタヘルスアンドニュートリションサイエンス株式会社
肌のうるおい成分であるNMF(Natural Moisturizing Factor:天然 保湿成分)の一成分であるPCA(ピロリドンカルボン酸)様のペプチド原料。抗老化遺伝子であるサーチュイン遺伝子の活性化を介してLC3タンパク質の量を増やし、オートファジー機構を活性化する作用が期待できる。
トレハロース
LC3-Iからホスファチジルエタノールアミン結合型(オートファゴソームに結合する)のLC3-IIへの変換を促す。mTORの阻害がみられないことからmTORとは独立した活性化機構が考えられている。
以上オートファジーの活性化機構を持つ化粧品原料をピックアップしてみました。
新商品のコンセプトメイキングにお役立てください。